六拾七番 甘くて儚い恋の予感

【67番目のうた】

春の夜の夢ばかりなる手枕に
かひなく立たむ名こそ惜しけれ

【意訳】

春の夜の夢にすぎないあなたの腕枕のせいで
噂がたったらつまらないわ

【作者 周防内侍】

周防守の娘で代々天皇に女房として仕えました。女房三十六歌仙のひとりで「周防内侍集」を残しています。出家後の1109年頃、70数歳で病のため亡くなったとされています。

【味わい】

詞書:二月の月が明るい夜、二条院にて人々が夜を明かしてお話をしていたら、周防内侍が何かによりかかって「枕ないかしら」とつぶやいたのを聞いて、大納言忠家が「これを枕に」と、御簾の下から自分の腕を差し出し、それに対し周防内侍が詠んだ歌です。

当時は家族や恋人以外の男女は御簾で仕切られていたわけですが、その男女の境であるはずの御簾を越えて、いきなり腕をニョキッと差し出してきたのですから「きゃぁ~!」みたいな女房たちの嬌声が聞こえてきそうです。大人の貴族のくせにイタズラしてるわけですね。そこに「枕ないかしら」とつぶやいた張本人の周防内侍が、たしなめつつも色っぽい返しをしています。「春の夜の夢」は儚くも甘い響き、さらに「かいなく」の「かいな」は腕を意味しているオジャレ感。短歌はダジャレが多いほど素晴らしいとされていますが、そのダジャレがオシャレなときは「オジャレ感」がさく裂します。まさにこの歌は甘く儚いオジャレ感でもって、その楽しい月夜を彩っています。

【ご宣託】

儚くも甘い恋の予感です。春の夜の夢のように長くは続かない可能性が大きいですが、それはそれとして美しい記憶として残るかもしれません。ただし、変な噂になってしまうかもしれないので、それは気をつけてください。