六拾八番 

【68番目のうた】

心にもあらでうき世にながらへば

恋しかるべき夜半の月かな

【意訳】

心ならず現世で生きながらえたならば
恋しく思い出されるに違いない、この真夜中の月が。

【作者 三条院】

三条天皇。1011年に即位するが、藤原道長が自分の孫を即位させるべく、三条天皇に対し執拗な嫌がらせを続けます。眼病をわずらった三条天皇が祈願に行こうとするところを、高官たちに圧力をかけ、祈願行きを7回も阻止します。また内裏が二度も火事になり、落ち込んでいた三条院に対し、道長はいよいよ眼病を理由に退位をせまりました。1016年に三条天皇は退位、翌年に亡くなっています。

【味わい】

この歌の詞書には「病気で退位を決めた頃、月が明るいのを見て」とあります。「夜半」というのは真夜中の意味ですが、真夜中に明るい月といえば満月ですね。眼病であまり見えなくなった視力で明るい満月を見上げて、生きながらえたならばこの月がいつか恋しく思えるだろう。とかすかに希望をつないだわけです。

さて三条院に執拗な嫌がらせをした道長に有名な句があります。
「この世をばわが世とぞ思ふ 望月のかけたることもなしと思へば」
政敵である道長三条天皇は同じ満月を見あげながら、一方は「この世はわが世じゃないか」とうたい、一方は「心にもなく生きながらえたなら」とうたったわけです。そして三条院は残念ながら生き長らえることなく亡くなってしまいます。その短い余生で、彼は満月を見て恋しく思い出せたのでしょうか。

【ご宣託】

試練が待ち受けています。しかもこの試練はしばらく続き、あがいてもあがいても、むなしく運命の歯車は回り続けます。しかしこの試練もいずれは過去になります。いつかは終わるのです。あなたが望んだ結果ではないかもしれませんが、それでも人生は続いています。新たな希望を見出すことが、あなたの人生を照らす唯一の灯です。