六拾五番 恨んで恨んで朽ちていくあなたこそ惜しい

【65番目のうた】

恨みわびほさぬ袖だにあるものを

恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

【意訳】

恨みに恨んで涙に濡れる袖を干す間もないのに
さらにこの恋のおかげで浮き名がたって
私の評判が朽ちていっては悔しすぎます。

【作者 相模】

相模の名は最初の夫、大江公資が相模守だったことから由来してます。

大江公資と別れたのちに、藤原定頼や源資道と恋愛します。

 恋愛ではなかなかうまくいきませんが、赤染衛門紫式部と並ぶ女流歌人として高く評価されています。

【味わい】

 つらい恋の涙を拭いて袖が朽ちていき、さらには私の評判までが朽ちていく・・・。涙を拭きすぎて袖が朽ちていくというのも、台所の雑巾ではあるまいし、どれだけ酷使したんでしょうか。さらに自分の評判が落ちるのではなく「朽ちる」のですから、その情念の深さたるや、並々ならぬものがあります。そういった誇張表現が面白い一句ですね。

【ご宣託】

 目の前のつらいこと、嫌なこと、負の感情に振り回されすぎています。悲しむことで、受けたショックを受け止め、自分のなかで整理をつけることは大切な精神活動です。
しかし、あるできごとを自分のなかで繰り返し反芻し続けると、いつしか「ひとつのできごと」以上の意味づけをしてしまいます。「体験したできごとのひとつ」としてではなく「特別なできごと」に意味づけることで、忘れる、過去にすることができぬまま、自分自身を延々といつまでも傷つけることにつながりがちです。

どこかで区切りをつけることが大切です。恨む相手を許す勇気をもちましょう。そうすることで解放され救われるのはあなた自身なのです。