六拾番 親との関係/影響に悩むとき。小式部内侍が教えてくれます。

【60番目のうた】

大江山いく野の道の遠ければ
まだふみもみず天の橋立

【意訳】

大江山生野への道は遠すぎて
まだ母のいる天橋立の地を踏んだこともありませんし
母からの手紙も見てません。

【作者 小式部内侍 こしきぶのないし】

母親は和泉式部和泉式部とともに小式部内侍も中宮彰子に出仕しました。お母さんと同様に恋多き女性でしたが、26歳、出産のときに亡くなってしまいました。

【味わい】

小式部内侍は幼くして歌の才能が注目され、今でいうなら二世の子タレでしょうか。この歌を詠んだのはわずか10歳とか13歳とか。あまりに達者な歌詠みなので母である和泉式部の代筆が疑われていたほど。同じく二世タレントの藤原定頼が「お母さんからお手紙来た?」と聞かれ、とっさに技巧たっぷりのこの歌を返したことにより、疑いを晴らすどころか、さらに名声が高まりました。

【ご宣託】

親御さんとの関係が非常に濃い方ですね。自分自身であろうとしても、親の影響は非常に大きいものです。周囲が勝手な評価やラベリングをしてウンザリすることもあるでしょう。立派に自立した後も未だ追いかけてくる親の影。

まずは自分のモヤモヤを認めましょう。あなたは「あなた」であり、誰かの付属品ではありません。自分自身が自分の人生の決断をして、あなた自身がハンドルを握るべきですし、また、その責任を負うべきです。

と、同時に親からの影響を全否定、全消去することはできません。母親のおなかから生まれてきたからには、出自を消すことができないのは仕方ありません。「自分にはこんなバックグラウンドがある。だけれども、それが自分の全てではない。」そんな心もちでいればよいと思います。

他人は、ちょっとした軽口のつもりでとやかく言ってくるものです。または親が自分の領域にズカズカと足を踏み込んできたりするかもしれません。そんなときは小式部内侍のこの歌をこころのなかで唱えてみましょう。

私と親は別人格です。大江山と生野を超えた先ほどに隔たれているのです。距離的にも、心理的にも。

あなた自身がそれをわかっていれば大丈夫です。